なー。の「記憶に残っている、あの日」

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

いつの事にしようかな。

最近、ひーくんとふたりで話題に出ることと言えば、やっぱりあの日かな。

私たちがまだ付き合う前。

初めてひーくんと会った、あの日のことだろうと思う。

私たちは所謂ネット恋愛ってやつだ。

SNSで私たちは出会った。

だからなのか、出会ってから付き合うまでも何年かかかっているし、両思い期間もそれなりに長い。遠距離だったこともあり、なかなか実際リアルでは会えていなかったものの、一緒にいた年月や時間はとても濃かったように思う。

 

その日は初夏だった。

この頃の私は、毎日、末期癌と戦う母の介護をしていた。そのため、数年間、ひーくんに会った日と、その後に親友と花火大会に行った日、二度しか外出をしておらず、母の容体的に痛みを伴い叫んだり暴れてしまうため、医療麻薬のケアや、点滴、その他色々なケアや暴れて怪我をさせないために24時間体制であまりろくに睡眠もとることなく、常に母のそばにいた。私自身も極限状態ではあったが、私なんかより母の方が辛いんだから甘えてはいけない、そんなことよりも母を助けたくて必死だった。しかし、その日は、どうしてもと祖母にお願いして、19時までという約束で家を出たのだった。

祖母は私に、いつも24時間介護を頑張っているんだからたまにはいいのよと言ってくれたが、私は母を置いて出かけることに心配と罪悪感を感じてしまうので、なかなか外出することはなかった。この二度出かけた時も、私しか母の介護の仕方を詳しく知らなかったため、何かあるとすぐに私の電話は鳴った。看護師さんより私に先に電話がくるんだから、なかなか私も介護スキル高かったなーと。頑張ったんだから、少しは自画自賛するくらいは許されるよね?たぶん。笑。

今は、もっと介護について深く考え、介護する側のケアも必要という考えになったが、当時の私はそんなことを考える余裕がなかったな。毎日必死だったもん。

この介護のやり方は本当におすすめしないから、真似はしないでね。

やばいやばい、ついつい自分語りしだしちゃったよ。

まぁ、そんな状態だったから、外の世界はとても広く感じてね、しかもさ、好きな人に会いに行くっていう、これでもないくらいドキドキする一大イベントだったから、どこか現実離れしていたというか、夢の中?みたいな感覚だったな。

あれだ。ディズニーランド内にいるような。あの非日常の夢の国にいるような感じ。

こうしてシンデレラのちょっとした舞踏会行きが決まったわけ。

私の王子様は舞踏会なんて絶対開かないだろうけれど…。何せ、ダンスが面白いくらい残念な可愛い王子様だから。笑。

魔法がかかるように、お気に入りの洋服で、ちゃんとメイクをして。

当時の自分の服装までちゃんと覚えいる程の記憶力です。笑。

それだけ、やっぱり記憶に残っているってことだね。

 

あの日のことは、今でも鮮明に覚えてるよ。

ひーくんとの待ち合わせ場所に向かって、初めてひーくんに会った。

第一印象は目がキラキラだって思いました。さすが王子様だね。笑。

笑うと優しい目をしてて、でもどこか辿々しくて。

私ね、本当はすごく緊張していたけれど、

緊張してることがひーくんにバレるのが恥ずかしくて、いつも通りを頑張って装ってたな。

そんな私に、ひーくんは、変わらない優しい声で話しかけてくれた。

にしても、驚くべきはふたりの距離感。

たぶん2m近くは余裕で離れてた。笑。

ひーくんは、植え込みに座ってて、私は少し離れたところで立ってて、何気ない会話をしばらく外でお話していたね。

 

この初対面の前に、私がひーくんにお願いしていたことが二つだけあった。

まず一つは、会う前じゃなくて実際に会ってからお付き合いしたいということ。

会ったから自分の気持ちが変わるとは思っていなかったけれど、相手の気持ちはどうなるか分からなかったし、何より真面目ちゃんだった。笑。

そしてもう一つは、どうしてこういう流れになったのかはうる覚えだけれど、確かふたりきりになれる場所がいいね、みたいなことから展開したと思う。二つ目のお願いは、直接ひーくんにちゃんと伝えたかは定かではないけれど、私の初めての男の人になって欲しいということ。

厳密には、中学3年生の頃に、そういう被害にあったため、初めてじゃなかった。

だからこそ、大好きなひーくんにどうにかしてもらいたかったんだと思う。

我ながらめんどくさいコだったな。笑。

これがなかなかの物議をかもしだすかもしれないが、結果から言うとぴゅあぴゅあの清い交際、ひーくんと一線を越えることはなかったので悪しからず。笑。

 

ひーくんは、私にいつも真面目に向き合ってくれていたから、会ってからお付き合いしたいということも承諾してくれた。

まぁ二つ目のお願いに関しては、本当にいいのかって会う前に何回も心配して聞かれたし、会ってからも聞かれた。体目的じゃないからそう思われたくないし…って、何回も話し合ってくれた。

何故、初対面で?そう思う方も多いように思うけれど、私たちには時間がなかった。

ひーくんのことは詳しくかけないが、私の王子様は死にかけていたし、私もまた、日々に追われていたし、この恋が終わりに向かっていくことも分かっていた。

いつまで一緒に居られるだろう?

そんな感じかな…。

ずっと一緒に居たかったけれど、各々の事情で、それは叶わないことだったから。

今回その事情を話すと、たぶん何万字でも書いてしまいそうだから割愛します。笑。

刹那的であったと思う。

だから、何もかも急いでいた。

現に、ひーくんとちゃんと会えたのは、残念ながらこれが最初で最後だった。

 

私たちは、一線を越えるどころか、手を繋ぐことも、キスすることも、抱き合うこともなかった。

もどかしいくらいに、ふたりの距離は常に人一人分空いていた。

ただ、一度だけ、過去の事件のトラウマから、やっぱり一線を越えられない、怖い。と言って泣いている私を、ひーくんは優しく抱きしめてくれたのを良く覚えてる。

 

こうして、19時になり、シンデレラの魔法は解けて、現実へと戻った。

 

鮮明に残ってる記憶の中で、

手を繋いだり、キスをしなかったことへのご不満から、私は最近ふざけて?ひーくんにすねたことがある。笑。

「私、ひーくんに手も繋いでもらってないし、キスもされたことない!」←

駄々をこねる私に、ひーくんは「だって、あの時は、まだ付き合ってなかったもん。遠慮してたんだよ。」って言うもんだから、この時間差攻撃はクリティカルヒットを叩き出し、正直めちゃめちゃきゅんとしました。笑。

うわわ、本当すごく真面目に大切にされてたんじゃん、私って。←

 

ひーくんは、こんな私を当時からとても大切にしてくれていたんだよね。

会った日の後、ひーくんから改めて通話で告白をしてもらった時も…。

正直、私のせいで一線も越えられなかったし、手を繋ぐことさえもなかったから、もういいやって呆れられたり、嫌われたんじゃないかって思っていたのに、ひーくんはすごく真面目に真っ直ぐに、私に告白してくれた。

私が、「こんな私でよかったら、よろしくお願いします。」と言うと、ひーくんは涙ながらに「本当に?本当に?」と、何回も確認してくれて、私が「うん。」と言うと、私なんかのために嬉しそうに泣いてくれたんだ。

男性不審のこんな私を、どこまでも誠実に、そして大切に扱ってくれたひーくんのことを。眩しいほどにキラキラしていて、透き通るくらい濁りのない、とてもとても甘く、儚い恋を。

私は、あの日を。

生涯忘れないだろう。

まだ人生は続いているけれど。笑。

生涯忘れることなく、記憶に残り続けるだろうな。

             なー。