十年以上前の記憶 その2

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

 

 目的地はなかった。

 漠然と君のそばに行けたら良かった。

 他には何もなかった。

 早朝で無人駅だったから、電車内で切符を買う。

 とりあえず終点まで。

 鈍行で各駅停車。

 急行や特急に乗り換えることもない。

 もう何も急ぐことも、何かに追われることもない。

 ただゆっくりと最後を迎えることだけを考えていた。

 午前六時になり、僕は携帯電話の電源を切った。

 まだ誰も出社していない時間だ。

 もう会社のことも考えない。

 誰からの連絡も必要ない。

 ただ、彼女からもし連絡があったら、と少し思った。

 でも、そんなことはないだろう、と思った。

 

 僕は、自分のことを不要な人間だと思っていた。この世の中に必要ない人間だ。

 親が離婚して、僕は母方の実家で暮らすことになった。そこは自営業をしていて、そこそこ忙しかった。中学二年生の僕は、そこで働きながら、学校に行った。自分のことを不必要だと思っていたが、そこでは僕はそれなりの労働力だった。少しすると、祖父が全く働けなくなり、僕は、それなりではなく、重要な労働力になった。「僕しかできない」と言われる仕事をしていた。僕は、働くことで、自分自身の価値を見出していたのかもしれない。

 

 僕の周りは自営業ばかりだった。

 そのせいなのか、僕は、母から、「雇われる人間になりなさい」と言われた。

 家族の自由を犠牲にするような働き方にならないように、と釘を刺された。

 

 僕は、身近な人を犠牲にしないように考えていた。僕自身を犠牲にすれば、それは可能だった。けれど、僕は、そこまで有能ではなく、ほどなく限界が来た。それが、今というわけだ。

 

 携帯電話の電源を切っておくことは、最初すごく不安だった。誰ともつながっていない感じが僕を不安にさせる。だけれど、どこかで安心もしていた。もう誰かのことを考えなくてもいいんだ、そう思った。

 

 というところで、つづくのだろうか(笑)。というか、誰か読むのだろうか(笑)。

 今日はおしまい(*´ω`)

 

 ひ。